相続・遺言を考える③~震災後の相続手続きについて
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今日6月11日で、東日本大震災の発生から3か月になります。1万人を超える犠牲者、未だに8000人以上の方が行方不明で、その後の原発事故でその収束がいまだなされていない現状で、復興とはまだまだほど遠い状態です。
この震災後の3か月ということで、にわかに新聞、マスコミで取り上げられているのが、「相続放棄」の問題(朝日6月5日付、日経6月8日付)です。
「相続放棄」とは、相続が開始した後に相続人が相続の効果を拒否する意思表示(民法938条~940条)のことを言います。相続財産が債務超過である場合には相続人が意に反して過大な債務を負わされるので,これを回避するために認められた制度です。
相続人は、相続開始の時から、「被相続人(=死亡した人)の財産に属した「一切の権利義務」を承継する、これが「相続」なのです。ここで「一切の権利義務」という言葉に注意を要します。「権利」とは、いわゆる積極的なプラス財産、すなわち所有権、債権、現金、株式などがあたります。そして「義務」が「財産」に入っていることに注意をして下さい。「義務」とは消極的なマイナス財産、すなわち債務が典型であり、借金などです。借金も立派な財産なのです。これら、積極プラス財産、消極マイナス財産が、相続人の意思、考えいかんに関わらず、「当然」に承継する、これが「相続」です。
この積極プラス財産よりも消極マイナス財産の方が多い場合に、効果を発揮するのが、「相続放棄」なのです。しかし,わが国の実態は,むしろ共同相続人が家業を承継する者を除いて相続を放棄し,相続財産を1人に集中することによって農業資産や経営資産その他の家産の分割散逸を防ぐために利用されていると、言われています。
ただ、この相続放棄をするためには、自己のため相続の開始を知った時から「3か月以内」に家庭裁判所にその旨を申述しなければならないのです(民法938条・915条1項)。これが、今回問題となっている点で、「3か月」というのは期間としては意外に短く、この「3か月」を経過してしまい、相続放棄を失念してしまうケースも実際上多いところです。
そして、相続放棄をした者は,初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。つまり、被相続人の債務は、負わなくて済むことになります。ただ、共同相続の場合は,他の相続人の相続分が増加します。また,相続放棄をした者については代襲相続は認められていませn(民法887条)。つまり、子供相続放棄しても、孫が相続人となることはありません。しかし、たとえば、第1順位の子供全員が相続放棄したような場合、次の順位の直系尊属(父、母等)に相続される形になりますので、注意が必要です。
相続放棄をいったん行いますと、撤回することは許されないですが,一定期間内に無能力や詐欺・強迫などを理由として取消しをすることはできます。その際,その旨を家庭裁判所に申述しなければならないことになります(民法919条)。
ともかく、今回の震災により死亡された方の相続放棄の期限が迫り、トラブルも予想されるところです。